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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)61号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、次に説示するとおり、第二引用例記載の技術的事項及び本願発明の奏する作用効果を誤認した結果、従来周知の横型中ぐり盤のボーリングバーに第一引用例により公知の切削油噴射装置を設け、第二引用例の切削油循環給油装置によつて切削油を循環させ、本願発明のように構成するようなことは、当業者が容易に考えることができるものであるとの誤つた結論を導いたものであり、この点において、違法として取り消されるべきである。すなわち、

1 前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第一号証の一(昭和四七年一〇月一九日付特許願並びに添付の明細書及び図面)、同号証の二(昭和五一年七月一四日付手続補正書)、同号証の三(昭和五五年一〇月三日付手続補正書)及び同号証の四(昭和五一年一〇月二五日付手続補正書)を総合すれば、本願発明は、横型中ぐり盤の切削油循環給油装置に関する発明であるところ、長尺横型中ぐり盤によつて長尺円筒材の中ぐり加工を行う場合には、その切削部分に多量の切削油を噴射してその部分を冷却するとともに、そこに生じた切粉を先方に流し出して、長尺円筒材の材質の変化及び仕上り精度の低下を防止し、かつ、作業能率を向上させる必要があることから、一度消費した多量の切削油を能率よく回収して循環させて再利用するための装置を提供することを目的として、前示本願発明の要旨(本願発明の明細書の特許請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成を採用したもので、その結果、右構成中、被加工材挟持装置6を立設した摺動自在なテーブル4の後部に深皿状容器体8を設け、容器体8の後方部分をその後端部9に向かつてゆるやかに上昇するように傾斜させた構成により、油中に切粉が浸漬する量を非常に少なくし、切粉に付着した油の切りを確実に、かつ、迅速に行うことができる作用効果を、また、深皿状容器体8の側部に切削油排出部11を設け、その排出部11の前後移動軌跡の下方位置に樋状容器12を設け、その樋状容器12の底部の一部に切削油ろ過用金網製通孔13を設け、その通孔13の下方部に切削油再ろ過用金網製通孔14を有する貯油槽15を設ける構成により、切削油を無駄なく回収し、ろ過効果を高めるとともに、切削油を冷却することができ、切削油の劣化を防止するとともに、切削工具の切削性を良くする作用効果を奏するものと認められる。他方、成立に争いのない甲第三号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、本願発明の特許出願前に日本国内において頒布された刊行物であり(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、それには、別紙図面(三)に示すように、ガンドリル本体の側部に樋状の切屑排出口、その下に、底面の後方部分が後端部に向かつてゆるやかに上昇するように傾斜し、底面の前方部分の平たんな部分に高さが次第に高くなる三枚のハネ板を備え、更に底面前方にストレーナを設けた深皿状の切屑タンク、フイルタ、冷却器、油タンク、高圧ポンプ等を備えたガンドリルの切削油循環給油装置が図示され、右装置においては、ガンドリルの切削加工によつて生じた切屑は、切削油とともに切屑排出口を通つて切屑タンクの後方部分に送り込まれるが、被加工物の切屑は、ハネ板によつて以後の流動が阻止されてタンク底部の傾斜底面に沈下して堆積し(したがつて、切屑の油切りをする作用はない。)、一方、切削油は、ハネ板を乗り越えて流れ、ストレーナーでろ過された後、更にフイルタでろ過され、冷却器で冷却された後、油タンクに戻され、再びポンプによつてドリル先端に給送されるものであることを認めることができる。

ところで、前示本件審決理由の要点によれば、本件審決が、本願発明の切削油循環給油装置と第二引用例記載の切削油循環給油装置とを対比するに当たり、本願発明の深皿状容器体8を第二引用例の切屑タンクに相当するものとしたことは明らかであるところ、両者を対比するに、本願発明の深皿状容器体8は、前認定の構成と作用効果から明らかなように、中ぐり盤の被加工材挟持装置6を立設した摺動自在なテーブル4の後部に中ぐり盤と一体に設けられ、テーブル4とともに移動するものであつて、その構造は、その後方部分を後端部9に向かつてゆるやかに上昇するように傾斜させ、その側部に切削油排出部11を設けたもので、ボーリングバー3から噴射される切削油によつて強制的に運ばれた切削加工によつて生じた切屑を直接受け止めて、切屑と切削油とを右傾斜面において分離し、切屑を右傾斜面上に堆積させて油切りをするとともに、切屑から分離された切削油だけを右傾斜面上を流下させて切削油排出部11から樋状容器12に排出するようにしたものであるのに対し、第二引用例記載の切屑タンクは、前認定したところによると、ガンドリル本体とは別体に設置されたもので、切削油と切屑とを分離し、切屑を堆積させて切削油だけを流出させるという機能を有する点では本願発明の深皿状容器体と共通する機能を有するものの、その具体的構成及びその余の機能(切削油と切屑の分離の仕方、すなわち、本願発明の深皿状容器体8が企図した切屑の油切りをするための構成、機能等)並びにその奏する効果を本願発明の深皿状容器体と異にすることは明らかである。そうであれば、本件審決が第二引用例の切屑タンクを本願発明の深皿状容器体8に相当するものとし、両者が同一の技術的思想に基づくものとした点はその認定を誤つたものといわざるを得ない。被告は、本願発明の深皿状容器体8と第二引用例の切屑タンクとの間に前記のような相違点のあることを認めながら、本体と一体であつても別体であつても、深皿状の容器体であつて、大量の切屑を貯溜することができる点で両者は一致し、作用効果においても格別の差異はみられず、したがつて、右の相違点は、単なる構造上の微差にすぎず、しかも、別体のものを一体化することは、慣用される設計手段であるから、この点は、第二引用例記載のものから容易になし得ることである旨、また、第二引用例の切屑タンクは、切屑のほか切削油も貯溜しているが、深皿状の容器体であつて、大量の切屑を貯溜することができる点で本願発明の深皿状容器体8と共通し、切削油だけを流出させることは普通に行われていることであるから、この切屑タンクを加工部の近くに置き、切削油が自然に流出するようにするとともに、ハネ板を除くか低くすることは、当業者において必要に応じて考えられる程度のことであつて、本願発明の深皿状容器体8は、第二引用例の切屑タンクから容易に考えられるものである旨主張するが、前認定説示のとおり、本願発明の深皿状容器体8と第二引用例の切屑タンクとはその技術的思想及び作用効果を異にするものである(したがつて、両者の相違をもつて単に構造上の微差をもつて論ずることはできない。)から、被告の右前段の主張は採用することができず、右後段の主張は、叙上の理由のほか、本件審決が本件審判の請求を排斥する理由とした点を逸脱した主張である点からも、採用するに由ない。なお、被告は、この点に関し、液体の流出を容易にするために底を傾斜させることは、各種のタンク、水を使用する日用器具等において周知であるから、深皿状容器体8の底を傾斜させることも容易に思い付くことである等るる主張し、乙第五号証を挙示するが、右主張は、前示本件審決理由の要点から明らかなとおり、本件審決が理由としたところとは異なる事項を主張するものであつて、新たな拒絶理由を示すに等しく、本訴において、このような主張をなし得るものとすれば、審査、審判の段階において、拒絶査定をするに当たり、特許出願人に対し拒絶理由の通知をし、意見書を提出する機会を与えることを必要とした法の趣旨に反することは論ずるまでもないところであるから、許されないものというべく、また、右乙号証は、本件審決の引用例を補充するためのものでもなく、被告の本件審決理由とは異なる新たな前記理由を基礎づけるための証拠資料であつて、前段同様、本件審決の適否を判断するための資料として、本訴において提出することは許されない性質のものというべきであつて採ることができない。

叙上認定説示したところによれば、本件審決は、本願発明と第二引用例記載のものとの対比に当たり、本願発明の深皿状容器体8に関する技術的思想が第二引用例の切屑タンクに開示されているものと誤認し、右の誤つた判断を前提として、従来周知の横型中ぐり盤のボーリングバーに第一引用例の切削油噴射装置を設け、第二引用例の切削油循環給油装置によつて切削油を循環させ、本願発明のように構成することは、当業者が容易に考え得るものとしたものであつて、右第二引用例についての認定の誤りが、本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断を加えるまでもなく、違法として取り消されるべきである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、前記判示の点に違法があることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ベツド1の一端部に主軸頭2を立設し、その主軸頭2の一端面に水平方向に突設したボーリングバー3を取り付け、前記ベツド1の他端部にはボーリングバー3の軸方向に摺動自在なテーブル4を載置し、前記テーブル4上に被加工材挟持装置6を立設し、さらにそれらを切削油飛散防止用包囲体7で包み、前記テーブル4の後部に深皿状容器体8を設け、その容器体8の後方部分を容器体8の後端部9に向つてゆるやかに上昇するように傾斜させ、この容器体8の側部に切削油排出部11を設け、その排出部11の前後移動軌跡の下方位置に樋状容器12を設け、その容器12の底部の一部に切削油ろ過用金網製通孔13を設け、その通孔13の下方部に切削油再ろ過用金網製通孔14を有する貯油槽15を設け、前記深皿状容器体8と切削油排出部11と樋状容器12と切削油ろ過用金網製通孔13と切削油再ろ過用金網製通孔14と貯油槽15と給油ポンプ17とボーリングバー3の内部を貫通した通油路18と切削回転頭19にある噴油孔20とを給油系により連絡した中ぐり盤の切削油循環装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

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